理事長挨拶
【日本武道とスポーツ】
戦後、日本武道は社会的認証を受けたことにより、剣道・柔道・空手道、そして明治時代以前に発祥を持つ古武術等が、学校もしくは道場で身近に学べるようになりました。 社会的に普及が進む一方で、スポーツ化への移行の波も激しく、本来の武術・武道としての意義が忘れられてしまうことも少なくありません。
スポーツ化の制約による武術としての技法的な衰退はともかくとして、現在の武道は試合のためだけの練習に偏った指導が著しいと言わざるを得ない一面があります。 本来、実践的な武術としての指導と、心を練るための修業は一致するものであり、決して離れるものではありません。
スポーツの主眼とするところは、試合に勝つための練習であり、それを目的としたトレーニングメニューが組まれ、指導がなされます。しかし、先天的に運動神経が良く、体格に恵まれたものは、10人に1、2人いるかいないかというのが現状です。例えば、50人の生徒がいるとしたら、残りの40人の生徒は、試合のための練習メニューでは著しい進歩を遂げることができず、試合に出場する生徒の為の練習相手で終わってしまうことが多いのです。スポーツであれば、それもよいでしょうが、「武の道」として精神性の鍛錬をも主眼としている武道においては、このような指導が中心でよいのかと疑問に感じます。このような試合のみを目的とした優先的な指導は、先天的な素質に恵まれた者を増長させやすく、肉体的資質の劣る者を最初から諦めさせてしまうという危険性をもはらんでいます。
本来武術の技法には、外的な筋肉と体動における内的な呼吸法とを一致させることで、速く、強力な力を発揮する体系が存在します。それには古来より伝わる様々な口伝、修練法がありますが、根本にあるのは術理に沿って何度も「繰り返す」ことなのです。単調で同じ内容を繰り返すことは精神的にも厳しいものですが、飽きず黙々と繰り返す中で心的部分も練磨され、これに指導者が段階に応じて個々への技法に対する的確な教伝を行うことで、肉体的資質に劣る者でも確実に進歩し、また精神面での発達も見られます。
私の指導の経験からも、不器用で体格的に劣る者が、こつこつと地道に修練を続けた結果、数年後に大きく実力を開花させ、長く継続する一方、センスや運動神経に恵まれた者は、壁にぶつかって進歩が停滞すると容易に諦めてしまう傾向があります。 また、子供たちを例に挙げれば、体格の小さい気弱な子が、諦めずに何年も稽古を続け、指導者がその個性を重視して伸ばすことで、心身共に強くたくましくなることは多いのです。
こうした古来より伝わる修業体系は長い年月を必要とするものであり、スポーツとしての即効性を求める者には向いていません。しかし、武術を「武道」、すなわち「武の道」として長い年月を歩き続け、生涯、己自身を心技体共に成長、向上させていくために、日々生活の中で修業を行っていくものとするならば、このような修業体系は必要不可欠なのです。
【古武道の技法と礼法】
現況として、往々にして稽古の前後での礼や、挨拶、敬語について多少の指導をするだけで、多くは他のスポーツと同様に筋力的、技術的なトレーニングが主体になっています。このような練習体系のみでは、本来、日本武術に内在する「小よく大を制す」技法の会得も、また、稽古によって精神性の向上を得られることも稀です。
日本の古武道には、剣術、体術等の武術と共に、礼法もまた伝えられてきました。礼法は修業の一環であり、稽古相手を敬うだけでなく、争いを未然に防ぐためにも、不用意な言動を慎むなどの礼節、心構えも含むものです。 武術は闘技であるからこそ、学ぶ者には礼節への指導が必ず必要です。
日本の伝統文化である武道に興味を持つ子供達が、武道の稽古を通して挨拶、敬語等の基本的な礼儀作法を身に付け、集団行動での礼節を学ぶことで、生活習慣の改善や非行の防止につながり、青少年の健全な育成に寄与することが、成果として大いに期待できます。
「ゆとり教育」という言葉が言われるようになって久しいですが、現在の子供たちと接していると、保護者の方の過保護が以前より目立つように感じられます。これは少子化が原因の一因とも推察されますが、時代による子供たちの個性は確実にあるのです。指導者はそれを認識しつつ、特出した者だけを優先するのではなく、一人一人の個性を重視した指導こそが「武道」による青少年育成に必要と思われます。
日本には古来より伝わる、優れた技法体系を持つ武術が伝承されております。 これらの技法は古の武人により、長い年月をかけて研究・練磨の末に体系付けられたもので、非常に高度かつ合理的、実践的な術理を有しています。 私達は国際総合武道連盟の活動を通じ、この優れた日本古伝武術の文化と伝統を守るだけでなく、広く一般国民に対し、その伝承と普及を図り、武道を通しての礼儀・作法の習得を含めた青少年の健全育成及び国際親善交流を行うものです。
NPO法人国際総合武道連盟 理事長 宇津志 建
総合武道少林会会長・最高師範
総合武道少林館宇津志道場代表
柳生潜流武術第六代宗家
少林村井流空手道第三代最高師範
武蔵円明流兵法第十五代相伝師家